RIMOWA JAPANプレス宍戸さと子様講演会。ファッション業界の、コロナ下における最新トレンドとPR戦略とは?
ファッション業界の中でも、志す人が多い職種「プレス」。PR、広報を担当し、メディア、ライター、スタイリストら、社内外のコミュニケーションが多く求められるお仕事です。
今回は、バンタンデザイン研究所キャリアカレッジ生を対象にした講演会をレポートします。
「宍戸と申します。今日はよろしくお願いします。
私は、もともと日本の大学に1年通っていたんですが、ラジオ局で働いたことを機に、メディアに興味を持つようになりました。よりメディアについて勉強したいと思い、18歳で渡米し、コミュニケーション学部に入学。卒業して日本に戻り、ファッション業界に入りました」と、ご挨拶するのは、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ(以下、LVMHグループ)RIMOWA JAPANプレス宍戸さと子様。
ファシリテーターは、宍戸様の同級生でもある、バンタンデザイン研究所キャリアカレッジスタッフが務めます。
─── これまでのキャリアについて教えてください。
「最初に入社したのは『DKNY』の ダナキャランジャパンです。求人は、新聞の広告で見つけました」
その後、FENDI、adidas、Y3、G-Star RAWプレスルームなどを経て、現職に。
<RIMOWA JAPANとは>
「RIMOWAは、どの国のブランドかご存じでしょうか?」
在校生「ドイツ?」
「その通りです!創業したのは、ドイツ・ケルンです。ブランドがスタートしたのは1800年終わり頃。当時、未だ旅は一般の人には旅行は普及しておらず、貴族など限られた方のみが楽しむものでした。創業から120年以上が経ち、2016年にはLVMHグループとなりました。RIMOWAは、人々がいかに軽く旅行できるかにフォーカスしたブランドです」
─── DIOR、OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH、Supremeなどとコラボレーションも行っていますね。コラボする際の基準は?
「時代のトレンド感をとらえているブランドです。
また、コラボレーションすることで双方に新しい発見があり、顧客、ファンを得るキッカケになることが理想です」
<RIMOWA Store 銀座7 OPENING RECEPTION>
「こちらは、オープニングレセプションの様子です。当日は、村上隆さん、藤原ヒロシさん、AMIAYAさんなど420名ほどのゲストにお越しいただきました。透明なRIMOWAのスーツケースに、村上隆さんの作品が入ったオブジェも展示されました。イベントは入社2カ月目に担当したのですが、前CEOで、LVMHグループ会長の次男(現TIFFANY & CO. エグゼクティブバイスプレジデント)であるアレクサンドル・アルノーが訪れることになったんです。必ず成功させなくてはいけないという緊張感がありました」
─── こうしたイベントに招待する方はお招きする基準はあるのでしょうか?
「RIMOWAをお使いいただき、使う目的がある方です。トップアスリート、アーティスト、女優さん、インフルエンサーさんは世界中を旅されていますよね」
また、招待状の紙の厚さにもレギュレーションが存在すること、サーヴするのはLVMHグループ「MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社」のドリンクであること、ゲストへのギフトは、「ポリカーボネート」という飛行機の窓ガラスなどにも使われる素材のポーチで、この日のために書道家にペイントを施してもらったことなど、ここでしか聞けないエピソードを披露しました。
<RIMOWA Heritage Ginza>
日本初のフラッグシップストアRIMOWA Store 銀座7丁目では、RIMOWAが所有するヘリテージ コレクションの中から約30点のスーツケースを一同に集め、ブランドの歴史を辿るキュレーションを実施。「単に歴史を見せるだけでは面白くないと思い、アレンジを加えました。ColliuとUSUGROW という全く異なる世界観を持つ2名のアーティストアに、作品として作っていただきました」
<コロナ下でのマーケティングとは?>
「コロナ下で旅行を控えてという要請があるなかで、移動するために作られたRIMOWAは、ここ2、3年はビジネスの厳しさを感じています。
一方で、2年ほど前から、リュックサック、トートバックなど、通勤通学に使えるアイテムを展開しています。また、オフィシャルサイトでは『THE NEW NORMAL』と題した独自のコンテンツを発信しています。
コロナ下で、ネガティブになりがちな気持ちをどのように前向きに進めていくのか?インフルエンサーたちにインタビューしています。ここで気を付けているのは、『商品を使って』というダイレクトなメッセージでは見る人に届かないということです。あくまでも『日常の中にRIMOWAが存在する』ことを大切にしています」
─── Licaxxxさん、小島鉄平さん、藤森慎吾さんなどを起用されていますが、取材する基準は?
「常に新しいことに挑戦するのが好きな方。有名だからというよりもその人がブランドと合っているかどうかを大切にしています」
<今後のマーケティングとは?>
─── さまざまな取り組みを見てきましたが、プレスを目指されている方に必要なことは何でしょうか?
「本質を見ているか、分かっているかどうかです。例えば、あるブランドが好きだとして、そのブランドはどのようなブランドなのでしょうか?ブランドの核って何だろうということを考え、本質を理解してください」
─── お仕事で、英語を使う機会はありますか?
「ファッション業界に入って最初の10年は使う機会はありませんでした。現在、LVMH グループ社長とのコミュニケーションは英語です。英語は勉強しておいて損はありません」
─── 辛かったときは、ありますか?
「あるブランドは、派遣からのスタートでした。靴を何千足も整理して、厳しい毎日でしたが、人から優しくしてもらえたり、メディアに掲載してもらえたりすると、大変なこともプラスと考えられると思います。
また、某ブランドに在籍していたとき、口を聞いてくれない担当者もいました。私も転職し、その方も転職され、10年ぶりに、『プレス席を確保してほしい』と連絡が入ったんです。相手は、私がブランドのプレスの仕事をしているとはご存じなかったと思います。その際に、こちらが意地悪な対応をすることもできたのかもしれませんが、それでは相手と同じ土俵に立ってしまいます。なので、笑顔で挨拶し連絡を取りました。相手も驚かれていましたが、とても心を開いてくださり親切にしてくださるように。
物事の良しあしは、いい悪いではなく考え方次第です。ぜひ、人と人とのリレーション、コネクションを大事にしてください」と力を込めます。
<今後のファッション、マーケティングはどうなっていく?>
─── 「プレス」に求められる経験、スキルはありますか?
「特別なスキルはいらないと思います。資格があるかどうかではなく、先ほどもお伝えしたように、ブランドの本質をきちんと理解して語れるかどうかが大切です。
例えば、ジ―スターというデニムブランドに入社する際に、面接では『コラボレーションするなら、どのブランドがいいと思う?』と、アイデアを聞かれました。ブランドの背景をふまえたうえで、そうした意見を語れると良いと思います」
在校生からも、熱量の高い質問が寄せられました。
Q.学生のうちにしておくべきことはありますか?
「今やっている勉強の、基礎をしっかりと学んでください。あとは、5年後10年後に、どのブランドでどんな仕事をしたいか、どうなっていたいか、明確にイメージを持っていたほうがいいです。私は、『N.YやPARISでコレクションをこの目で見たい』とイメージしていました。そうすると辛いことや理不尽なことも糧にできるし、『今後、役立つかもしれない』とプラスに捉えられると思います。あとは、競合を見ておくことも大切です」
Q.日常生活で心がけていることはありますか?
「出社するときは広告、街行く人のファッションを見ていますね。あとは、SNSも常に見ています」
最後に、RIMOWAが掲げるキャッチコピー『No one builds a legacy by standing still.』を例に挙げ……「コピーライトもブランドの蓄えのひとつです。
コピーライターさんと相談し、『歩み続けるものが世界を変える』と訳しました。立ち止まっていてはダメ、という否定的な文章では、スっと心に入ってこないと感じたのでこのように訳しました。皆さんとまた業界でお会いできることを楽しみにしております」とエールを送りました。
ファッション業界の最前線で活躍されているプロフェッショナルのメッセージは、説得力があり示唆に富んでいました。
「本質をとらえる」「人と人とのリレーションを大切に」「物事の良しあしは考え方次第」など、たくさんの気付きを得られたはず。